【素材研究室①-2】GORE-TEXの話 ~透湿性に関して~

2018/11/29 20:58

さて今回の素材研究室は前回に引き続き、

GORE-TEXのお話。

3部構成の2番目です。

tousitu2018

=====================

1.GOREを構成する素材に関して←クリックでページが移行します。

2.透湿性に関して

3.GORE-TEXプロダクトに関して

=====================

3のプロダクトに関してはまた次回お送りいたします。

 

イエーイ!また長い話になりそう~♪(←もはや、「なります」って断言したほうが良い)

 

 …先にどんなことについて書いてるかを表記しておきましょうね。

このまま読み始めて頂くのはさすがに気が引けます…。

今回のブログ内容はこんな感じです↓↓↓↓↓

———————————————————

・透湿性と通気性の違い

・GORE-TEXの透湿の仕組み

・透湿性のテスト方法に関して

・透湿性が低下する要因と対策

———————————————————

 

それでは、今回もそもそも論からスタート~(^^)g

そもそも…

透湿性とは何?通気性との違いは?》

 

透湿性=布等を水蒸気が通り抜ける性質

通気性=空気が通り抜ける性質

 

まず、水蒸気は『気体となった水』という定義なので、通気性でも透湿性でも水蒸気は通過することになります。

ちなみに水蒸気と湯気は別物です…水蒸気は目に見えません。限りなく分子に近い状態です。

湯気は非常に小さな液体の集まりです。霧や靄、雲も液体として存在しているのと同じ感じです。

 syuzanso_2018112801

(↑写真はGORE-TEXのタグに載っている防水透湿のイメージです。)

 

GORE-TEXのように透湿性と防風性を持ち合わせている素材の場合、水蒸気は出ますが、空気は通さないということです。

厳密に言うと、100%完全に通さないわけでは無いそうですが…。

PUコーティングが空気の流れをほぼ止めることになります。

通気性を謳うモデルに関しては、ウェアの内外でほんの僅かな空気の流れが作れ、水蒸気を含め自由に出入りしている状態となります。

 

 

《GORE-TEXの透湿の仕組み》

 

では、通気性を謳わないGORE-TEXはどのように透湿しているのか?

 gore-tex

前回のおさらいですが、【GORE-TEXメンブレン=ePTFE+親水性PUコーティング】という構造です。

ePTFE自体は疎水性多孔質膜(水を含まず穴がいっぱい開いているもの)なので、通気します。

これに防風性を持たせる為と防汚目的で親水性のPUコーティングをしているのです。

透湿させるにはこの親水性PUコーティングがお仕事をします。

親水性を持ったPUがウェア内の水蒸気を一旦保水することができるのです。

その後、そのPUが乾く過程で再び水蒸気となりePTFEの穴を通って出て行く仕組みとされています。

一旦保水させるので、透湿性が機能するにはある程度ウェア内の湿度が高くなる必要があります。

そして、温かい空気は温度の低い方へ動く性質を利用するので、ウェア内が外気より高くないと透湿性は機能しません。

つまり、ウェア内に蒸れ感が出てはじめて透湿しようと動き出します。

 syuzanso_2018112803

前回少し触れたNeoshellやDRY.Q ELITEは【通気性】を表記しています。(↑写真はNeoshellのタグ)

通気モデルの特徴はウェア内外の温度や湿度の影響を受けずに、透湿が可能ということです。

Neoshellは99.9%の防風性と0.1%の通気性としています。この0.1%を体感することはかなり難しいと思われます。

【通気性】と表記している素材のほとんどが透湿性の数値を表記しておりません。

 

そりゃあ空気が通るウェアのほうが、水蒸気も通るのはテストしなくたって想像つきます。

テスト方法も色々あって、実際にどれが優秀なのか?ということが言いづらくなった為、数値を載せていないメーカー・素材が増えてきました。

 

 

《透湿性のテスト方法に関して》

 

テスト方法に関して言えば、基本となっているのはA-1法・B-1法・RET法等です。他にA-2法とかB-2法もあります。

よくメーカータグに表記されている【○○○g/㎡/24h】というのはAとBのどちらかで測った数値です。

RET法は【4~6】とかで表されます。数字が低いほど透湿性が高いことを意味しますが、あまり見ない表記方法ですね…。

ちなみにGORE-TEXはRET法での検査もしており、【4~6】というのはProシェルのことで、C-Knitは【2~5】くらいだとされています。

同じGORE-TEXを使っても、当然表地の厚さや裏地の素材で透湿性に差がでます。

 

では、よく目にするA-1法とかB-1法は何が違うのか?

 

A-1法=実際に使用する条件に近い環境での測定値 (ウェア内40℃で外が乾燥している状態)

B-1法=その素材のもつ最大透湿量の測定値 (試験対象を直接水につけて無理やり透湿させる)

 

何とな~く予想が付くと思いますが…そうなんです。

B-1法のほうが圧倒的に高い数値がでます。

テスト方法の詳しい解説は省きましょう…。

 

GORE-TEXの基本はB-1法で13,500g/㎡/24hとされています。

GOREのC-KnitをB-1にかけても25,000くらいだという話です。

同じB-1法はミズノのベルグテックが16,000、ミレーのTYPHONが50,000だったり…。

 syuzanso_2018112806

こちらはミズノのタグに記載されているもの。

syuzanso_2018112805

そしてミレーのTYPHONのタグ表記。

 

ちなみに…モンベルのカタログに記載されているGORE-TEXの透湿性なんですが、

【25,000~98,000g/㎡/24h B-1法参考値】とされています。

 syuzanso_2018112807

ん?なんだその【98,000g/㎡/24h】って。

 

見たこと無い数字出てる…。

どうやらGOREのshakedryのことらしいです。

shakedryの透湿性を記載してるところは今まで無かったような…。

 

もしそうだとしたら、表地無しってやはりスゴイ革新的なんだな…。

 

A-1法を採用しているところはファイントラックの《エバーブレス》。

syuzanso_2018112804

A-1法で10,000g/㎡/24hという数値。

今までのB-1法からすると低く感じますが、A-1法は10,000出ればトップクラスなんです。

耐水圧も20,000mmと、GOREからすれば半分程ですが、充分と言えます。

実はゴア社としてはGORE-TEXの耐水圧を公表はしていないそうです。

あの45,000mmとか50,000mmという数字は各メーカーが自社素材との比較で測ったものが流れ出て定着したもののようです…。

ですので、有名なGOREのタグには一切の数値は出ておりません。

 

ちなみに、ファイントラックはB-1法のほうが高い数値が出るのを知っていながら、敢えてA-1法を採用しております。

「実際の使用環境に近い状況でテストをしなければ」という拘りだそうです。

ファイントラックらしい(^^)

そうは言ってもB-1法の結果も気になるところですね…。

 

GOREをはじめ、B-1法を採用しているところが多いのは、メンブレンに親水性PUコーティングをしているからです。

直接生地を水に浸けてテストを行なうB-1法はメンブレンに親水性があったほうが有利だとされています。

素材表示に(PUコーティング)と書かれている場合、ほとんどが親水性のPUコーティングを施しております。

 

テスト法についてはこれくらいにしておきましょうか。

メーカーのタグに数値が載っていればテスト法も気にしてみてください。

 

《透湿性が低下する要因と対策》

 

さて、ここからは透湿性が低下する要因について書いていきます。

 

大きな要因は2つ。

 

まずは、【ウェアの汚れ】、そして【ウェア内外の温度差・湿度差】です。

 

【ウェアの汚れ】に関してですが、【汚れ】というだけあって対策は【洗濯】です。

洗濯すると防水性が落ちるのでは?と思われる方もいらっしゃるかと思いますが…。

防水は加工されているものでは無く、生地の性能なので、洗濯でダメになることはありません。

レインウェアもTシャツと同じように汚れていきます。

私もめんどくさがりであまり頻繁には洗わないのですが…。

たまに洗ってみると洗濯水が茶色く濁るくらい汚れています。(←洗わなすぎ)

 

ウェアの内側には汗に含まれる目に見えない塩分や皮脂がこびりついています。

GOREの場合はPUコーティングをしているのでePTFEの目が詰まることは少ないのですが、

裏地にこういった汚れが蓄積し、透湿機能を低下させます。

外側には雨等に含まれるチリやホコリが付着し汚れていき、撥水性も同時に低下させます。

撥水性が低下すると、ウェアの表面を水の膜が覆うような状態になり、透湿性が大きく低下します。

ですので、洗濯して汚れを落とした後は、必ず撥水スプレーの処理を行ないましょう。

 

撥水性は洗濯より定期的に処理を行なったほうがいいです。

できれば使う前に毎回スプレーをかけて、撥水性を維持しておきます。

撥水性を維持させておくと、単純に表地に汚れがつきにくくもなります。

 

これが、「撥水性が落ちたからスプレーをかける」ではダメなのです。

撥水性が落ちている時点でウェアに汚れが溜まっており、スプレーをかければその汚れごと加工してしまいます。

すでに汚れているので、透湿性は低下した状態で固定されます。かけたスプレーもすぐに落ちてしまいます。

撥水性が落ちたら一度洗って、汚れを落としてからスプレーや浸け置きの撥水剤を使うようにしてください。

撥水性をもつウェアは未使用の状態(新品)が一番撥水性が高いです。

その状態を維持したいので、新しいものにもスプレーをかけておくことをオススメします。

 

撥水しているかどうかには基準があり、対象の水滴と生地の【接触角】で表します。

 sessyokukaku201811

撥水している=接触角≧90°

ちなみに、『超撥水』というのは、接触角≧150°

と定義されています。

 syuzanso_2018112802

写真はファイントラックのスキンメッシュの生地サンプルです。

ほぼ玉になっている状態ですね。この状態は完全に撥水しています。

ちなみに、沢登りに人気なフラッドラッシュの撥水性はかなり超撥水に近いと思われます。

 

と…撥水では無くて洗濯についてのお話でしたね。

ゴア社のHPでは液体洗剤を使っていただければ特に問題は無いそうです。

柔軟剤や漂白剤はダメ。濯ぎを多めに。

洗剤成分が表地に残ってしまうと、汚れた状態と変わりが有りません。

濯ぎが充分かを確認したいので、洗濯は他のウェアと分けてしたほうがいいです。

 syuzanso_2018112808

NIKWAXやGrangers等、こうした防水透湿素材を洗うための洗剤が出ておりますので、

そちらを使ったほうが良いかと。撥水剤もセットで販売していますので、一緒に手に入れておきましょう。

撥水加工するスプレーの中にはGORE等の防水透湿素材への使用が望ましくないものもあるので、

お店でスタッフに確認しましょう。

syuzanso_2018112809

望ましくないというのは、「撥水させられるけどスプレーの加工が透湿する目を塞ぐ可能性がある」ということです。

スプレーに記載されている『対応素材』に皮や合皮がダメなものはこうした透湿素材もダメなことが多いです。

自宅にあるものを使う際は一度ご確認下さい。

 

続きまして【ウェア内外の温度差・湿度差】についてです。

 

熱(温度)と同様で、水蒸気(湿度)も高いところから低いところへ移動します。

ですから透湿性を機能させるにはウェア内の温度・湿度が高く、外気が低い状態でなければなりません。

ですが、温度に関しては一概に差が大きければ良いというわけではありません。

 

冬山のように外気が氷点下に近い状態になると、ウェア内で水蒸気となった汗はPUコーティングに保水され、そのまま留まってしまうのです。

冬場は洗濯物が乾きにくくなるのと同じ状態です。

挙句の果てに、保水した状態で凍りついてきます。

GOREの内側がバリバリに凍ったことある方もいるかと思います…。

私は晴天の冬山でGOREの内側がビショビショになり、非常に不快な思いをしたことがあります。

 

その対策で重要なのが、【ベンチレーション】、換気機能なのです。

syuzanso_2018100604

(写真はファイントラックのリンクベント機能)

内側がビショビショになったGOREのジャケットは夏用でベンチレーションが有りませんでした…。

その当時は金銭的問題と別に大丈夫だろうと甘く見ていたのもあり、冬用シェルは持っておらず…。

ベンチレーションの大切さが身に浸みました…。

 

冬用のシェルには基本的にベンチレーションが付いています。

雨具を始めとする夏用にはなぜ付いていないのが多いかと言うと、

温度差が大きく無いのもありますが、やはり携行することが多く、ファスナーを多用すると仕舞いにくく、重さも出てしまう点が上げられます。

 

大々的に【通気性】を謳うNeoshellのTB Jacketですら大きなベンチレーションが付いています。

そのウェアが持つ透湿性・通気性のみでは排出できない、間に合わないのです。

汗をかくのは圧倒的に登りの最中なので、登り始める前からベンチレーションは開けておきましょう。

寒くなったら閉めればいいだけです。汗だくになってから開けても遅いですよ。

 

湿度の差に関してですが、湿度も高い方から低い方へというお話をしました。

そうなんです。ウェアの外の方が湿度が高い場合、ウェア内の水蒸気はかなり排出されにくくなります。

透湿性にとってみれば高温多湿な日本の夏山は天敵なのです。

 shinjuku_2015081306

あるメーカーさんの話では、土砂降りの雨の中を想定したA-1法の湿潤バージョンだと、透湿性はその50%~20%程度まで低下するそうです。

ファイントラックのエバーブレスはこの湿潤環境にも強いとされておりますが、

しかし、それでも低下することに変わりは無く、この高湿状態への対処は非常に難しいものなのです。

 

温度差に対してのベンチレーションのように、抜本的な対策は無いと言えます。

(開けないよりは開けたほうがいいと思いますが…。)

 

ここは如何に、快適に行動していられるかを考えていくことになります。

透湿性が落ちることを前提に行動した場合、

重要なポイントは『ウェアの内側をどれだけドライに保てるか?』ということです。

 

ポイントは3つ。

 

①レインウェアは早めに着る。

夏山の良くないところは、弱い雨ならむしろ気持ちがいいと感じてしまうところ…。

雨が強くなってきたら「そろそろ雨具着ようかな~」となり、

結果、汗+雨で湿ったウェアと身体の上からレインウェアを着ることになります。

そりゃ、レインウェアの内側も濡れますから、余計に透湿しなくなります。

 

②ペースの見直し

汗もなるべくならかかないほうがいいです。

足元も悪くなるので、ペースは落として落ち着いて行動しましょう。

そもそも汗だくの時点でペース配分を間違っているので、

荷物の内容も含め見直しましょう。

 

③湿ったベースレイヤーを着替える

すでに、べースレイヤーが汗だくになっている場合は、思い切って着替えましょう。

さらっとしたウェアにレインウェアを重ねて着ると不快感はかなり軽減されます。

ウェア内の湿度を大きく下げることができます。

 

高湿への対策はこうして気を付けていくしか無いと思われます…。

特に③の着替えるは気持ちもリセットされるのでオススメです。

ですので、着替えは多めに持っていきましょう。

Tシャツ程度なら100~200g程度なのでそんなに重量増になりませんし。

 …透湿性についてのお話。いかがでしたでしょうか?

今回のお話で少しでも透湿性に対する理解を深めて頂けたら幸いです。

 

ケアが大事とか、上手く付き合うポイントなんかを書いてきましたが、

根本的に【防水透湿素材】で一番重要なのは【防水性】です。

 

蒸れる蒸れないより濡れる濡れないのほうがはるかに重要性が高いことを忘れないでください。

蒸れるのは不快なだけで終わる話ですが、濡れると低体温症等のリスクが上がります。

 

goreproduct

絶対に濡れない為に開発されるウェアが【GORE-TEX PRODUCTS】なのです。

次回はそんな【GORE-TEX PRODUCTS】のお話。

 

やはり今回も長かったですね。

「とうしつ」って変換すると「糖質」になるんだよな…。

もう途中から「糖質」の話でもいいかと思ってくるくらい…。(←それはダメだろ)

「糖質」の話もこれくらい長くなりますね…きっと。

エネルギー管理って奥が深い!それはまた別の「研究室」でお話しましょう。

 

またまた最後までお付き合い有難う御座いましたm(__)m

次もお時間が許す限り…どうぞ宜しくお願い致します。

 

それでは(^^)/

 

-MN-

 

 ★カテゴリー★

#東京#新宿#登山#登山用品#GORE-TEX#ゴアテックスとは?#透湿性とは?#通気性#違い#A-1法#B-1法#低下#対策

 

★お問い合わせ★

店舗:秀山荘 新宿店

TEL:03-5285-8500

MAIL:shinjuku@y-spsys.co.jp

秀山荘facebookはコチラ←フォロワー募集中!『いいね』してね♪